呆化防衛論

みずから長い年月をかけてでっちあげた以上、わしにとって、もはやその空疎な「映画史」を「みやび」として崇め奉る以外の手立てがあろうはずもなく、実際、三島由紀夫とちがって、わしは堂々と「老醜」をさらせるだけの恰幅を具えているという自負心を唯一の支えとする一方で、わしは結局、態度変更のあるいは割腹の、絶好の機会を決定的に逸してしまっただけではないのかという正当な懐疑をどうにも振り払うことが出来ない。そこで、わしはたしかにファルスだが、手本にした「文化防衛論」がそもそもファルスなのだから、そんなことを深刻に思い悩む必要もないし、荒唐無稽ないかがわしさを積極的に擁護することで、教え子たちにも「みやび」を崇め奉ることの無責任な痛快さというべきものを、身をもって示しえたはずだという自負に救いを見出してもみるわしは、その教え子たちが実際に「みやび」を崇め奉る様子を見て、しめしめと思う。

そもそも、わしの理窟からいえば、わしはなんに似てしまっても構わんわけだから、「テメエは糞掻き棒だ」などといわれれば、それもまた然りで、わしには「否定」がないというのが、わしについてのおおよそ妥当な定義というべきかもしれない。つい先日も、つぎのようなことをほざく輩が存在したが、わしはそれを否定もせずに、ただわしの古呆けた「記憶装置」に入力したのみである。

  テメエのくだんない「パースペクティヴ」とやらにも、空疎「そのまんま」の「表象批判」にもあきあきしたぜ。テメエこそ「射殺もの」だっての。
  「この詐欺野郎!」(ダンカン)。

さらに、わしは次のような会話をも聞き漏らすことは決してない。そこに盗聴器を取り付けたのはほかでもないこのわしなのだ。至るところで、わしが監視の目を光らせているということを君たちは努々忘れてはならない。

   セイートー:蓮實重彦の本で今でも読めるものって何かありますか?
   カラタニー:それが何もないんだ。
   セイートー:だけど、どうしてそんなことに?
   カラタニー:もともとそれが空疎な美学でしかなかったからだ。 

ああ、わが息子よ、汝、『物語批判序説』。たしかに、それはひたすら空しいが、サルトルとヴァレリーは「野暮」であるということだけは君たちにもわかってもらえたことと思う。わしは生来の「粋」であるから、彼らの「野暮」は断固として空疎化させてもらったよ。いうまでもなく、それこそが、わしのいわゆる「倒錯」の権利にほかならない。それと、そこには書かなかったが、わしはウィトゲンシュタインという人間も気に食わん。戦争に身を投じるだとか財産を放棄するだとか、そういう「ヴォランティア」活動をわしは好かんのでね。いずれも忌避されるべき類のものだよ。まったくブルジョワにあるまじき行為だ。ブルジョワには、ブルジョワにふさわしく、あくまでその在り様に自足しながら、ブルジョワ生活を満喫できるだけの太さが必要なのだ。

ところで、いつだったか、わしの『帝国の陰謀』に柄谷行人が異議を表明したことがあったが、君らも知っての通り、彼もまた稀にみる無粋者でね、あるいは何といったらいいのか、そう、まさに「野蛮人」とでもいうほかはないんだが、その彼が、わしがマルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』を空疎化しようと試みた途端に、わしに食って掛かってきたんだよ。わしが、マルクスは、第二帝政期の「いかがわしさ」をとらえることが出来ていないと、いつもの調子でやらかしたところへすかさずだよ。わしとしては「やってやったぜ」とばかり、まさに悦に入らんとするところだったのに、その隙もあたえてくれないんだからね。かつて80年代には彼とわしは文芸評論家として、まさに双璧とみなされたものだが、いまや彼が小説というジャンルの、生まれて間もないその「いかがわしさ」に真剣に向き合おうとはしなくなってしまっているのも、そうした彼の無粋のせいだと思うよ。ところが、なかには柄谷は21世紀にふさわしく変容を遂げてなお「志」を失わない者として一貫してラディカルであり続けているなどと噴飯なことを言う輩もあって、しかも、そういう輩がだよ、わしのことを「糞掻き棒」(=空疎書き暴)などと呼ぶにいたってはまったく付き合いきれんよ。

結局、わしは諸君に「映画を畏れよ」といい続けてきたわけだが、ここで種明しをしてしまえば、要するにそれは君等をして「みやび」を崇めさせるための方便であったに過ぎない。わしは今更、映画などを畏れてはいないが、「道徳法則」(「強い視差」)の現れについては、それを畏れざるをえないのである。というのも、「それ」(「強い視差」につきまとわれた「武」)は「みやび」の存立を危うくするからね。どうかね、わしが、いかに「帝国大学」にふさわしい人間であるか、君たちにもよくわかったろう。

それでは最後に、これだけは言っておくことにしよう。「ボヴァリー夫人はわしだぁ~」。くどいようだが、いちおう「お約束」だからね、まあ大目に見てくれたまえ。

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